戦国島津伝




 第十九章 『第二次大口城攻略戦』

 本拠・内城で島津義久は、末弟の家久を呼んだ。

 「家久、お前に菱刈の大口城攻略を命ずる」

 「大口城、ですか」

 家久の兄の義弘は数日前、大口城に向かう途中、大きな打撃を被ったばかりである。

 「かしこまりました!大口城は私が必ず!」

 「頼もしいな」

 こうして家久率いる第二次大口城攻略軍が編成された。




 馬越城

 家久軍を迎えたのは、城主の新納忠元である。

 「家久様、ようこそ。今夜はこの城でお過ごし下さい」

 「新納殿、早速だが大口城の地図を」

 「無論調べております」

 机上に敷かれた地図に見入る家久と新納。

 「大口城の城主は菱刈隆秋、数は二千。肥後の相良氏も援軍を差し向けているようです」

 「大口城は堅固な城、あの義弘兄さんでも落とせなかった」

 「あの時は、私がもう少し早く合流していれば」

 「まあいい。此度の戦は、釣り野伏せを使う」

 「釣り野伏せ?」

 「我が島津家に伝わる戦術だ、この戦術は野戦でも攻城戦でも使える」

 「ほう、ですが相良軍の方は」

 「任せろ」

 それで作戦会議は終わった。




 翌朝

 家久は新納忠元、伊集院忠倉、鎌田政年・平田光宗を前に号令した。

 「大口城を落とす!全軍、裏切り者の菱刈一門を許すな!!」

 雄叫びと共に槍や刀を打ち鳴らす黒い軍団。

 そんな中、家久は家臣の平田光宗が変な男を連れているのを見つけた。

 「待て、平田殿、その男は?」

 見ると全身に包帯を巻いた背の高い男である。

 「はい、この者はそれがしの従者です」

 「包帯を巻いているが・・・」

 「病です。ですが腕は確かです」

 「ふ〜ん」

 家久が顔を覗き込むと、包帯男は顔を背けた。

 「まあ、鉄砲ぐらいは使えるだろう。平田殿は手勢を率いて大口城の裏山に向かってくれ」

 「御意」

 平田は従者と共に裏山に向かった。

 「伊集院!」

 「はい」

 呼ばれて伊集院忠倉がやって来た。

 「間者を用いて相良軍に虚報を流せ」

 「どういった?」

 「島津軍の大軍が山に伏せておると」

 「・・・ああ、分かりました」

 忠倉は不敵に微笑み、本陣を後にした。




 大口城

 「鉄砲隊を前に出せ、一斉射撃!」

 家久の号令で、大口城攻めが始まった。

 「新納殿は右、鎌田は左を攻撃せよ」

 大口城の表門は三つ、特に真ん中の門は一番大きく堅固である。

 「さすがに硬いな、だが、そうでなくてはな・・・」

 菱刈勢の応戦も激しい。

 家久は時を待った。

 「報告!敵援軍の相良義陽(さがらよしひ)は、伊集院殿の虚報に浮き足立ち、山に潜んでいた平田殿の攻撃で、呆気なく退却しました」

 山に潜んだ平田隊を大軍と思ったのだろう。

 これで大口城の菱刈勢に援軍は来ない。

 「一気に攻勢に出よ!」

 全力で島津軍が押し始めた。だが、菱刈も全力で応戦する。

 「攻撃停止!退け!」

 家久の命令で、島津軍は一斉に退き始めた。

 これを好機と、菱刈軍が打って出て来る。

 「退け、もう少しだ」

 島津軍を追って城から離れる菱刈軍。

 家久は、菱刈軍が予定の場所まで来た事を確認すると、心の中で確信した。

 (勝った!)

 家久軍が退却を停止し、真っ向から菱刈軍と衝突した。

 「平田殿を呼び戻せ、伏兵部隊に合図を!」

 法螺貝が吹かれ、伏兵部隊が菱刈軍を襲った。

 「側面から突っ込め、押せ!」

 正面の家久軍、横の伏兵部隊の攻撃で、菱刈軍は潰走した。

 その時、家久は馬上で指揮を取る男を発見した。

 「あいつは・・・菱刈重広!覚悟!」

 馬に装着させていた鉄砲を手に持ち、馬上から家久は撃った。

 バン!・・・バン!

 銃声と共に肩を押さえる重広。

 大将の負傷で、敵軍は続々と城に退却。

 大口城は落城必至となり、遂に降伏した。総大将の菱刈隆秋と菱刈重広は城を捨て、味方の渋谷一族の領内に逃げた。




 合戦後

 疲弊していたが、家久を含む全員が喜びを表していた。

 「勝ったぞ、大勝利だ!」

 家久が喜んでいると、全身包帯の平田の従者が近付いて来た。

 「良くやった家久」

 「え!その声は・・・」

 顔の包帯が解かれ、従者の顔が見えた。

 「よ、義弘兄さん!」

 「ふふ、お前がどんな戦をするのか見たくてな」

 突然の兄の登場に、度肝を抜かれる家久。

 「あ、い、う・・・」

 「終始見事な采配だったぞ、だが菱刈重広を狙撃したのは俺だ。お前の玉は外れて、俺の玉が後ろから命中したんだ」

 確かにあの時、銃声は二つ聞えた気がする。

 「あ〜なるほど、ってそんな事より、何で兄さんがこの戦に!」

 「本当は、まだ動ける状態じゃないんだが、平田に無理を言ってな、同行させて貰った」

 「な、な・・・」

 「申し訳ありません家久様。義弘様がどうしてもと言われて」

 そう言うと、高笑いしながら義弘は去り、平田は頭を下げて義弘の後を追った。

 「鎌田」

 「はい」

 家久は近くに居た鎌田に話しかけた。

 「知ってたのか?」

 「いいえ」

 「本当か?」

 「私は家久様から目を離す事はありませんので」

 「・・・・もういい」

 家久二十二歳、戦術家としての才能を見せた一戦だった。


 第十九章 完


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