戦国島津伝




 第六十四章 『戸次川の戦い』

 鶴賀城の城主、利光宗魚は顔面を狙撃されて絶命した。

 司令官を失った鶴賀城守備隊は、豊後の大友義統に救援を依頼。

 既に水の手も絶たれている守備隊にとって、府内からの救援はまさに生きるか死ぬかである。





 島津の攻勢を防ぐ大友家だが、各地の拠点はダメージを受け、他に救援を出せる状態ではない。唯一の例外は本拠の府内だが、その軍は四国の援軍で成り立っている。

 その四国勢を総括しているのが、仙石秀久という男。

 彼は鶴賀城の危機を知り、真っ先に出陣の意思を示した。

 「鶴賀城は豊後に残された数少ない防衛拠点。ここを守らねば、府内が直接攻撃されてしまう」

 それに真っ向から反対したのが、十河存保、長宗我部元親、長宗我部信親である。

 「あなたは関白様の意向に逆らう気か!」

 豊臣秀吉は大友義統と仙石秀久に、自分が来るまで軍を動かすなと命令している。

 「鶴賀城を見捨てれば、府内の城下が焼かれてしまう。関白殿下を、焼けた街でお出迎えするのか!」

 秀久には命令無視の前科がある。豊前鎮圧のために軍を動かしたのだ。

 今回の鶴賀城救援でその失態をもみ消し、豊後を完全に守り抜く。秀久は焦っていた。

 「義統殿もそう思うであろう!」

 「うっ、しかし」

 「何を迷われる。父上の宗麟殿も見事に島津軍を撃退したのですぞ」

 父親の奮戦。秀久と同じく秀吉の命に背いた自分の独断。

 義統は頷いた。

 「よし、出陣じゃ!」

 十河存保、長宗我部元親、信親父子はなおも反論を唱えたが、決定権を持つ二人を止めることはできなかった。





 なぜいま乱世なのか。

 島津家久は種子島の報告を聞きながら考えた。

 「横風もなく、地面も硬かったので、思い通りの射撃が出来ました」

 「それで、利光宗魚は?」

 「間違いなく即死でしょう。顔に直撃しましたので」

 「即死か・・・」

 もしも乱世でなければ、戦で死ぬことも無かった。

 「それで家久様。私はこの後、どうすれば」

 「そうだな、しばらく軍に留まってくれ。まだお前の力は必要だ」

 「嬉しいのですが、私は殿の護衛が」

 「まあ、待て。戦はすぐに来る」

 「・・・わかりました」

 静かに退出する種子島久時。家久は最後まで顔を合わさず、軍配を眺める。

 自分はいつから、戦に飽きたのだろう・・・。





 12月11日

 大友軍8千は府内を出発。戸次川西岸を進み、鶴賀城の西北に位置する竹中山の鏡城に本陣を置いた。

 豊後四国連合軍の軍容は

 右翼隊

 桑名太郎佐衛門 兵力1千

 長宗我部元親 兵力1千

 長宗我部信親 兵力1千

 左翼隊

 十河存保 兵力1千

 仙石秀久 兵力1千

 予備隊

 大友義統 兵力不明(恐らく2〜3千の兵力)

 といった具合。

 追い詰められている大友家からすれば、精一杯の軍勢だ。





 伊集院久春、島津豊久、山田有信は全員本陣に集められた。

 「大友と四国の軍が鏡城に進んだようだ」

 「ようやく野戦ですか、腕が鳴る」

 久春はどこか嬉しそうだ。

 「父上、敵軍の数は?」

 「およそ8千」

 「ならば数の勝負では我らの勝ち。こちらは1万8千の軍勢です。正面から堂々と敵を打ち破りましょう」

 相変わらずの強硬論、豊久は根っからの猪武者のようだ。家久は黙って腕を組み。

 「有信はどう思う?」

 「ふ〜む。今の大友家の現状を考えると、8千という軍勢はギリギリの数でしょう。それゆえ、必死に攻撃をかけて来ると思うのですが」

 有信はしきりに上を見たり、下を見たり。なかなか本心を言わない。

 豊久がそこで大事なことに気付く。

 「敵軍の総大将は誰なのですか?」

 家久は初めて顔を上げ、息子を見た。

 「もちろん大友義統だが、実質的に軍を指揮しているのは仙石秀久という男だそうだ」

 「仙石秀久?聞いた事もない」

 「どうせ、関白に取り入って成り上がった金持ち侍であろう」

 久春が鼻で笑う。その時、有信がようやく本腰を入れて話し出す。

 「取り敢えず、一度鶴賀城の包囲を解き、退くべきではござらんか?」

 この意見に久春と豊久は激昂した。二人はどうも気が合うらしい。

 「戦ってもいないのに敵に背を向けるとは、本気か有信殿!」

 「賛成しかねるぞ!」

 「まあ、待たれよ。これは誘いだ」

 「「誘い?」」

 家久は黙って事の成り行きを見守る。

 「お主達は忘れたのか?家久様が我々に見せてくれた素晴らしき戦術を」

 「戦術・・・」

 「耳川の合戦、沖田畷の合戦でも、島津家は『釣り野伏せ』を使って勝利を収めたではないか」

 釣り野伏せは島津家久が生涯で大成させた戦術。最初は果敢に敵軍を攻撃し、機を見て退却。追ってきた敵を一斉攻撃で撃滅するのだ。

 「確かに釣り野伏せは強力な戦術だが、そう何度も成功するのか?」

 久春はなおも反論する。豊久も無言で頷く。

 「まあ、決断するのは家久様だが・・・」

 有信は家久に、意味ありげな視線を送って席に座る。もしかしたら、軍略家としての家久を理解しているのは、この男かもしれない。

 家久は立ち上がり、号令をかける。

 「本陣を坂原山に移し、敵軍を誘い出す。我に必勝の計あり!」

 島津軍は鶴賀城の包囲を解き、本陣を梨尾山から南約4キロの坂原山に移した。





 連合軍の司令官、仙石秀久は島津軍の撤退に食いついた。

 「ただちに戸次川を渡って敵軍を粉砕する!」

 だがまたしても、長宗我部の親子に止められる。

 「功を焦ってはなりません。兵力では我らが不利。まずは敵を川に引き出して対陣し、関白公や他の援軍を待って決戦するべきです」

 元親の意見に、息子の信親も同意する。

 「父上の言こそ、関白様の望みです。今焦って攻撃すれば、それすなわち負けです!」

 同じ四国勢を率いる十河存保も、秀久を止めたと『南海治乱記』に記されている。だが『土佐物語』では、逆に賛成したとある。

 どちらにせよ、秀吉から軍監(勤怠を監督する者)に任命されている秀久の権力は強い。長宗我部父子の意見は聞き入れられなかった。

 かくして12月12日の早朝、秀久は自ら軍を率いて川を渡り始めた。





 長宗我部、十河の部隊も続いて進軍。右翼隊の土佐勢は東岸の山崎に兵力を結集し、長宗我部信親は南面の脇津留に着陣。左翼隊の秀久、十河の讃岐勢は追の口に布陣した。

 早期決戦は、避けられない事態になった。





 敵軍進撃の報に、島津豊久は血が騒ぐと同時にある懸念を抱いた。

 (もしも鶴賀城の兵が決死の覚悟で出陣したら、我々は横から攻撃を受けてしまう)

 その事を伊集院久春に相談した。

 「だから、鶴賀城にも兵を残して行くべきだと思うのだ」

 もちろん、久春は手を叩いて賛成。

 「まだ若いのに、よくぞ気付かれた!早速家久様に掛け合おう!」

 軍議の席で。

 「父上、鶴賀城の守備隊は疲弊していますが、戦えぬわけではありません。私が小部隊で城を囲み、加勢を阻止します。ご許可を!」

 「そうか、確かに鶴賀城の兵が動く可能性はある。豊久の意見はもっともだ、しかし」

 「しかし!?何ですか!」

 「お前はまだ若い。兵をうまく統率できるか・・・」

 「私に軍功を積むチャンスを下さい!」

 正直な武将としての意見。家久は昔の自分を見る気がした。

 「そうか、良しわかった。お前に任せる」

 「はっ!」

 久春も、我が事のように嬉しがる。

 「豊久殿、思う存分に功を立てられよ!」

 「うむ!」

 「だが豊久、城は包囲するだけだ。無闇に攻撃を仕掛けるなよ」

 「もちろんです。私にお任せを!」





 島津家久の行動は早かった。彼は軍を三つに分けて北方に前進。

 第一陣の伊集院久春は敵右翼隊の長宗我部軍に当たる。

 「第二陣の新納大膳正(にいろ だいぜんのかみ)がお前の後ろにある樹林に隠れる。お前は長宗我部の軍勢を出来るだけ引き寄せよ」

 「まさしく汚れ役、ですか私は」

 「ふふ、そう言うな。汚れ役は兵法の常だ。さて、第三陣は本庄主税助(ほんじょう ちからのすけ)に任せる。敵左翼の十河と秀久を合図と共に攻撃せよ!」

 山田有信が進み出る。

 「私と家久様は?」

 「予備隊として第二陣の後ろに控える」

 「なるほど、最後の花ですな」

 家久は軍配を振り上げ、将兵を叱咤した。

 「諸君!今日の相手は関白の軍団である。1万8千の将兵、一人も生きて帰ると思うな!!」

 「「「オオオオオ!!!」」」

 何かと豊後に入ってから武功を立てられなかった兵達。久々の野戦に腹の底から雄叫びを上げた。





 12月12日 日中

 島津軍の法螺貝が鳴り響き、合戦が開始された。

 第一陣の伊集院久春は、戸次川を背にする長宗我部元親の右翼隊に襲いかかった。

 「敵の兵力は1千。我らは二倍の三千。これは勝っただろう!」

  伊集院隊の猛攻にさらされる長宗我部隊だが、相手も四国では名の知れた長宗我部元親。率いる兵は有名な一領具足。数で勝る伊集院隊に一歩も退かない。

 ※一領具足(いちりょうぐそく)・長宗我部家が誇った農民兵

 「九州の兵に後れをとるな!天下に恥を残さぬよう、全力で戦え!」

 凄まじい激突を繰り返す両隊。そこに長宗我部元親と共に右翼隊を率いる桑名太郎佐衛門の兵が加わる。

 「左翼隊を当てにするな、元親様に加勢するぞ!」

 左翼隊を率いる仙石秀久、十河存保は右翼隊の危機にも動こうとしない。

 敵第三陣の本庄隊を警戒していると言うよりも、十河の讃岐勢と長宗我部の土佐勢はかつての宿敵。兵達の間にしこりがあったのかもしれない。





 長宗我部、桑名の軍勢は死力を振り絞って伊集院隊を押し返した。

 「久春様、もはやここまでです。退却しましょう!」

 「ははは、流石は土佐の出来人。よし、鐘を打て」

 ※土佐の出来人・長宗我部元親の異名

 伊集院久春は馬に乗り、側近と共に退却。兵達も死ぬ気で後退した。

 「隊列を崩すな!乱れれば敵に討たれるぞ!」





 連合軍・右翼隊

 「元親様、敵が後退します」

 「うむ、ただちに追撃。一兵も逃がすな!」

 長宗我部、桑名の部隊は利光村まで島津軍を追撃。多数の島津兵を討ち取った。





 島津軍・家久隊

 「右翼の伊集院が退きましたぞ、家久様」

 後ろで手を組み、面白そうに戦局を見透かす、山田有信。

 「土佐の出来人・・・案外勇敢なことよ」

 家久は合戦が始まってから眼の色が違う。どこまでも冷徹な眼。兄の義久に似ている。

 「第二陣の新納隊に合図を送れ」





 利光村まで後退した伊集院久春は、追撃する長宗我部と桑名の軍勢を自ら迎え撃った。

 「固まれ、固まれば敵も手出しが出来ぬぞ!」

 小さな方陣を作って敵軍を防ぐ伊集院隊。敵はこれでもかと四方から襲い掛かる。

 「ちぃ、ここまでか」

 久春がガラにもなく覚悟を決めたとき。前方で歓声が上がった。

 「久春様、第二陣が出陣しました!」

 「ふ〜、新納大膳正殿か。ヒヤヒヤさせる」

 既に久春の甲冑も、太刀も、血で汚れていた。





 樹林の奥深くに隠れていた新納大膳正は、伊集院隊を追撃した敵の側面に突撃。ほぼ一瞬で粉砕した。





 伊集院久春との戦いで疲れ切った長宗我部元親、桑名太郎佐衛門は新納隊の突撃を止める術がない。兵は潰走し、長宗我部信親がいる脇津留まで退却した。

 「父上が退却!?よし、我らも打って出るぞ!」

  四尺三寸(約1.3メートル)の大長刀を構えて出陣する長宗我部信親。

 『土佐物語』では、背の高さ六尺一寸(約1.8メートル)、色白で美男子と言われ、土佐では皆から慕われる若武者である。

 「若君のご出陣じゃ!続け、者ども!」

 「「「オオオゥ!」」」

 この信親隊の奮戦で、長宗我部元親、桑名太郎佐衛門は後方に陣を立て直した。





 連合軍・左翼隊

 流石に仙石秀久、十河存保は戦局の悪化を感じた。

 「ぬ〜、右翼隊は何をしている!」

 「秀久殿、どうやら敵の計略に乗せられたようですな」

 十河は静かに秀久を睨むが、秀久を聞く耳を持たない。

 「うるさい!ただちに右翼の加勢に向かうぞ!」

 そのとき、伝令が入った。

 「報告!敵軍が動きました」

 「なにぃ!」





 島津軍の第三陣を預かる本庄主税助は、第二陣の勝利に呼応して攻撃を開始した。鶴賀城の東方高地から一直線に仙石隊を目指す。

 島津予備隊も動いた。

 「いよいよ、出番ですぞ、家久様」

 「全軍突撃!一気呵成に敵を討つ!!」





 鶴賀城を包囲する島津豊久にも、戦場の声が聞えた。

 「ううむ、どうやら父上と有信殿の作戦が成功したようだな。四国の軍勢・・・わざわざ九州にまで来て不幸な事よ」

 豊久は鶴賀城を睨みながら、微笑した。

 「豊久様!」

 一人の老臣が駆けて来る。

 「何事だ」

 「鶴賀城の城門から敵兵が!」

 豊久は素早く槍を手に取り、馬上から号令する。

 「やはり来たか。全軍、敵を後ろに通すな!」

 「「オオゥ!」」

 鶴賀城守備隊にとっても、この一戦が全てであった。





 島津軍は鶴賀城の北方数キロに渡って敵軍と激突。第一陣の伊集院久春も戦列に復帰して、情勢は完全に傾いた。

 家久は第二陣が疲れたら予備隊を、それが疲れたら第一陣をという具合に新手を次々に投入。勇猛な土佐勢、讃岐勢をジワジワと追い込んだ。

 連合軍は戸次川下流の中津留河原まで退却。最後の死闘を演じた。





 長宗我部信親の陣地

 「父上に伝令を出せ!もはや勝敗は決した。この上は生きて土佐に帰りましょうと!」

 「承知!」

 誰も彼もが血で汚れ、ボロボロである。





 島津予備隊

 「敵は敗走を始めています。ですが一隊だけ、鬼神の如く暴れる者達が」

 「有信、それは誰の部隊だ?」

 「長宗我部信親の部隊です。いやはや、若いのに大した武者です」

 「種子島を呼べ」

 「やはり、討ち取りますか?」

 掲げる軍配の先にあるもの。それは阿鼻叫喚の地獄絵図を展開する戦場。





 完全に包囲された長宗我部信親は、死中に活路を見出さんと突撃を敢行。

 自らも大長刀で敵兵を斬り殺した。

 「死力を振り絞れ!敵を寄せ付けるな!」

 8人、9人、10人。信親の前に立つ島津兵はことごとく斬られた。

 だがその間、銃口が信親を狙う。

 (なるほど、美男だな。生きていれば良い君主になれたかも・・・)

 引き金に手をかける男、種子島久時。彼は馬上から信親に接近していたのだ。

 (さらば!)





 ダーーーンッ!!





 「何!」

 驚いたのは撃った本人。信親をかばい、桑名太郎佐衛門が倒れた。

 「桑名!」

 信親が慌てて馬を降り、桑名を抱き起こすが、彼は既に物言わぬ武士。

 「桑名!桑名!・・・おのれ!」

 再び馬に乗って、種子島に突進しようとする信親。それを島津の騎馬武者が防いだ。

 「いかせん」

 「どけぃ!!」

 まさに鬼か羅刹の形相で騎馬武者を薙ぎ払い、種子島に迫る。だが、敵武者が馬上から倒れ、一瞬視界を遮られた時、目の前には銃口があった。

 「!」

 ダーーーンッ!!

 銃弾が放たれた瞬間、信親は馬を飛び降りた。種子島は自分の馬に何丁も鉄砲を装着しており、連続的な射撃が可能だったのだ。

 「今だ!長宗我部信親を討ち取れ!」

 すかさず種子島の手勢が群がる。信親はもはやここまでと、脇差で腹を斬ろうとしたが。

 「お命頂戴いたす!!」

 信親は人と馬を蹴散らして突進してきた、鈴木大膳という勇士に首を取られた。ときに22歳の生涯であった。

 同時に、信親の側近達も疲れ尽きていく。





 桑名太郎佐衛門、長宗我部信親の戦死。この報告に十河存保が立ち上がった。

 「桑名殿、信親殿も死んだか・・・」

 「殿、早く退却されよ。味方は総崩れでござる!」

 既に仙石秀久も敗走している。勝敗は決した。

 「ふふ、死に場所としては物足りぬが、まあよい」

 馬上から槍を振り回し、敵兵の群れに突っ込む十河。老臣は眼を疑った。

 「殿!」

 十河は敵軍に突っ込むと、眼に映る者は全て斬った。

 「雑兵ども!何千何万とかかって来い!!この十河存保、地獄まで付き合ってやる!!!」

 暴れ回る猛将。遂に槍が折れた。すると今度は太刀を抜き、敵兵の首を飛ばす。





 島津予備隊

 「何だ、あの鬼は!」

 有信は驚愕し、家久は冷静に指令を出す。

 「弓隊を前に出せ。射殺せ」





 一斉に狙いを定める弓隊。足軽大将が合図を送る。

 「狙え!」

 十河を囲んでいた島津兵が前をあける。もはや疲れ果て、全身を血で汚した十河は、自分の状況を悟った。

 「放てぃ!!」

 空気を切り裂く音。数本の矢が狙い通り、猛将の体に吸い込まれていった。





 島津豊久軍

 「一斉射撃!!」

 ダーーーンッ!ダーーーンッ!ダーーーンッ!

 決死の覚悟で城を出た鶴賀城守備隊。だが、待ち構えていた島津軍を突破することは叶わなかった。





 天正十四年(1586年)12月12日

 戸次川を舞台に行われた合戦で、連合軍は1千余人の戦死者を出して敗走。長宗我部信親、桑名太郎佐衛門、十河存保、鏡城城主の戸次統常など、主だった武将が死んだ。

 島津家久は不意に周りを見回したが、誰もいなかった。もう、戦は終わったのだと、初めて気付いた。

 辺りは既に夕暮れだった。



 第六十四章 完


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